正月政治

正月に実家に帰省をしたところ、兄家族がインフルエンザで全滅となってしまったため両親とうちの家族、計5人だけで正月を過ごす事となった。気持ちを切り替え、それなりの落ち着いた過ごし方をしようと思い、つい最近新しく買ったばかりのipadで何か電子書籍でも買って読んでみようかなと考えていた。
以前のipadは10年以上使い込んだ”vintage”で、動作は遅くアプリはことごとく使えず、電子書籍も最近は読んではいなかった。用途としてはただ単に絵を描くときに元となる写真を見る事のみであったため、動作の遅さやアプリが使えない事など、そこまで大きな問題ではなかったので10年以上も使い続けて来れたのだが、急に充電ができなくなったために仕方なく買い直した。
なので、用途とスペックと価格を天秤にかけて買うべきモデルに目星をつけ、中野のPC系セカンドハンド店へ赴き、5年くらい前に発売された27,000円のipadを、ベストチョイスが出来る堅実な自分に酔いつつ、即購入した。

古いipadは充電が果てて以降もコンセントに刺しっぱなしにしておいたら、再起動後に普通に充電ができており、結果的に新たに買う必要はなかったのだが、買ってしまったからには新たなもので作業をしようと使いだし、画像の見やすさに有り難みを感じた。
ipadのアプリ等で制作の作業はしない。何かを作るならMACの方が楽だし早いし、イラストを描くわけでもない(描けない)ので、ipadのメインの用途は前述の写真を見ることだけで、高額・高スペックではない中古品で事足りたのだが、bluetoothもicloudも非対応の旧ipadと比べるとだいぶスペックは高く感じた。
「最新」「高〜」などと言う謳い文句に踊らされオーバースペックの不要なデバイスを買わされている資本主義の奴隷たちへ一言言いたいがために、細かい話が増え、話が逸れた。コピーペーストもできないのに、テトリスのパクリのゲームをやるだけなのに、ipad proを使っている俺の父のことなんだけど。

正月に戻す。
ゆっくりと落ち着いた正月を過ごそうと思ってはいたが、兄家族にいる育ち盛りの子供たちの為に母が事前オーダーしていた寿司10人前はキャンセルができなかったため、急遽父の従兄弟の政治屋のおじさん夫婦を招き、共に夕飯の食卓を囲む事となった。
その政治屋のおじさんは以前にも書いたことがあるのだが、過去に関西で自民党系の市議会議員を務めていた70代後半の人で、俺の人生で見た中で一番の金持ちである。今の2人目の奥さんは、噂では籍は入れていないとの話であるが、25歳もの歳の差があり、一緒に生活を始めてからは早25年らしい。おじさんよりも俺の方が奥さんとは歳が近いし、親子と見た方が自然なくらいの歳の差である。

家に着くなり新年の挨拶、俺の娘にお年玉を渡し、正月の儀式がひと段落した後、政治屋おじさんは父の横に座り
おい、あのワタナベ(仮)あいつ大丈夫なんか?なんかどうも共産がかってるんじゃねえか?ちょっと言っとけ。」と子分・舎弟・パシリに話す様な口調で話しを始めた。父は苦い顔をしながら頷いていた。その父の顔を見て
お前もなぁ自民党嫌い嫌いなんて言うけどな、今の日本があるのは自民党のおかけやぞ。自民党があったから、こーんな寿司なんかが食えとんねん。わしらの子供の時代なんて..」と暴論を付け加えた。
最近は山梨のとある市で暗躍をしているらしく、その市政を巻き込んだ「プロジェクト」は第一段階の協定を年末に結び、ひと段落をしたらしいのだが、恐らくその打ち上げの飲み会で、ワタナベ(仮)と何かがあったのだろうと推測をした。

その「プロジェクト」で父は古くからの友人の山梨のとある市の市長と政治屋おじさんとのパイプ役を務めているらしく、数ヶ月前から数回、自分もその「プロジェクト」に関わっているのだと、誇らしげに語ってくる父を見て、恥ずかしい気持ちと悲しい気持ちが入り混じった感情にさせられていた。
その「プロジェクト」はフワッとした父の話からだけだと、それなりに人々の為になるような話では一応あった。が、そんな父の曖昧な話からだといまいち掴めないその話の概要を政治屋おじさんと奥さんに、大量の寿司を前に聞きいた。
これから先、濁流に飲まれて沈むしかない日本の暗い未来しか現実的に考えられない俺とは全く正反対の、どこか全く別の世界の明るい「希望」に満ちた景色を見ているように、ハキハキと楽しそうに、そして自慢げに、話をしてくれた。政治屋おじさんだけではなく奥さんもかなり積極的に関わっているようで、2人で目論み動いている様であった。
冒頭の「共産がかってるんじゃねえか?」のカマシから考えれば裏には絶対に何か魂胆があるのは一目瞭然なのだが、”いけ好かない餓鬼”だと思われている俺などに核心・魂胆を話すわけもなく、何だかクリーンで明るい未来の話を聞かせてくれた。政治屋おじさんは酒を飲まないのだが、奥さんは自分のペースを崩さぬ様に少しずつ飲んでいたが、徐々に顔は赤らみやや酔いを感じている様であった。

その後に風力発電系の仕事をしている妻のお父さんの話題となり、その流れから話は日本のエネルギー政策について、となった。
なぜ日本は自然エネルギーへの転換ができなかったり、日本にもあるらしいと言われているシェールガスなどを利用できないのか、その様な話になった時
それ、なんでか知ってる?」奥さんがやや前のめりで問うてきた。
アメリカなの。全部アメリカが仕切っていて、日本は敗戦国だから、いうことを聞くことしかできないの。アメリカから売られたものを買うしかないの。
それはアメリカに依存し続け、NOと言わない自民党の政治が良くないんじゃないですかね?」やや反論のつもりで言うと、
そう、そうなの。”戦後レジームからの脱却”そう言ってアメリカの言いなりを止めようとしていたのよ、安倍さんは。だから殺されたの、絶対に。
そう目を強ばらせながら語る奥さんにやや気持ち悪さと怖さを感じていた時、
ああ、なんかあれも弾道が違うとかで、遠くからスナイパーが打ったとかって…」と母が急に会話に入ってきた。
おい陰謀論かよ、やめてくれよと、やや呆れ気味で「いやそれは..」そう俺が話し出そうとした時、
そう、そう!違うのよ弾道が!!そうなの!安倍さんは殺されたの、アメリカに!
奥さんはさらに顔を赤らめ、目を見開き、拳を握った。その陰謀論と安倍への熱い愛のコンバイン圧力にやられ俺は言葉を失い、以降は頷いて話を聞くことだけに徹するしかなかった。
その後も少し話を聞いていたが、エンジンのかかった奥さんの言葉の端端からレイシストがかった言葉もちらほら現れ、政治屋おじさんよりかはまともだと思っていた奥さん像は綺麗に崩れ去った。

それからと言うものの、俺の頭の中はこの時の会話がループしており、考えをまとめる意味でも、ここにいちいち書かざるおえない気持ちとなっていた。
こんな人間たちが小さいながらも市政を巻き込み、何かを動かす事が出来てしまうこの日本という国の愚かさを感じざるおえないのと同時に、クリーンな大義を掲げ、その実私腹を肥すためだけの似たような政治が日本の各所で行われ続けてきているからこそ、今の凋落があるのだなと、大いに実感ができた。
それと政治屋夫婦が帰ってすぐ、母には、”安倍スナイパー暗殺説”はSNSでバカどもが騒いでいるバキバキの陰謀論で、恥ずかしいから人前では2度と話さない方がいいよとちゃんと釘を刺しておいた。母はその陰謀論は知人の会社社長から聞いたとのことであったが、田舎x高齢者の蛸壷での陰謀論の感染力の強さを感じた。

父は昔からよく自民党の文句を言っており、サンデーモーニングを見た時にはご意見受付電話に「お前はさっさと田舎へ帰れっ!!そうっ伝えてくださいっ!」などとストレートな怒りを伝えてみたり、ある晩に酔った勢いで俺に「誰か1人、殺してもいいんだったら、お父さんは小泉純一郎を殺す。」急にそう言い放ったことがあった。そして実際にまあまあ暴力的で俺や兄たち、そして母もその暴力の被害にあったことは数え切れないくらいあった。
そんな父も今や老人、かなり丸くなったことと、幼少期から強固にある兄弟的関係性、数少ない生き残りである親類、その政治屋おじさんとここに来て揉めたくないので、あの歳で舎弟のような事をしてそこに「喜び」を見出してしまうのだろうと、想像はつくし、そんな父を責める気持ちは、、あまりない。

ここまで書き連ねたこの正月の中で、俺は、摩擦を起こさず、刺されていることに気づかないくらい鋭利でスマートな表現や表明ができる「大人」へとなりたい、そう思った。
結局、声の大きなものが勝つこの世の中の流れの中で本当に有効な攻撃は、今まで俺が心がけていた、摩擦摩擦の洒落っ気のないストレートな攻撃ではないと感じた。摩擦は自分自身の実感も伴うが、相手にもすぐに気づかれるうえ急所をつける確率も低い。しかも体力的にも長く持たない。怒りで殴るよりも笑顔で刺す、を心がけたい。
話が繋がっていない様に感じるかもしれないが、俺の頭の中ではそんな感じで腑に落ちてまとまった。

随分と長い文を書いた。
クリスマス前に自分へのプレゼントで買ったAmy Winehouse Remix集のレコードで一番好きだったやつ、貼り付ける。
すごく久々に行った新宿のUNIONで、こんなのあんのー!とか思って買ったんだけど、発売当時からシングルにはリミックスがいくつか入っていたらしく、それをまとめただけのモノだったんだけど。ずっとアルバムばかり聞いていたから全く知らなかった。
まあ、そんな感じで、今年も俺とよろしくしてくれる人は、
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

MA [em-ei]

1985年 アジア・日本生まれ 東京都在住

2012年2月24日の自身の誕生日に初個展「BORN IN JAPAN”[F*** you, I won?tdo what you tell me ]」を活動の声明とし開催して以来、アーティストとして活動を続けている。
油彩での写実的表現から、ステンシルを用いてのスプレーペイント、自身の街でのグラフィティから着想を得たペンキで描かれる「ドリップレター」など、各種油性塗料を主に使用したペインティング作品、そして雑誌、写真、ドローイング、文字等を元にアナログとデジタルの双方でのコラージュ作品、またそれらを組み合わせて作品制作をする。

WEBサイト : zmawamz.jp/
ショップ : shop.hidden-circus.com/


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